サンタフェ・インディアンマーケットの喧騒から遠く離れ、ニューメキシコ州のリザベーションで黙々とジュエリーを作り続けるデルバート・ゴードンという人がいる
御歳55歳、シルバースミス歴30年近くにもなるベテランだ。
彼はショーだとかそういったものに一度も出したことがない。という。
先日お伝えした「セレモニオ」での受賞は、地元トレーディングポストがお店にあるものを出しただけ、そして受賞した。という。
だから彼には、何の利益もない。
でも、全然気にした風でもない。
至って「自然体」だ。
一度も受賞したことが無くても、サンタフェやアルバカーキ等のジュエリーショップでも、名だたるトップアーティストと同等のケースに入れられ、同等以上の存在感をみせる。
一度も受賞したことが無くても、彼の地元のトレーディングポストは「彼の作るジュエリーは素晴らしい」と軒並み口を揃える。
彼のハワードネルソン氏ですら、デルバートの作品を見て、素晴らしいと感嘆していた。
・・・・・・・・・・・・・
彼がジュエリーを作り始めたのは今から30年くらい前。20代そこそこの頃。
この頃の彼は、多くのナバホの若者と同じように、職もなく、酒に溺れ、ぼろぼろの生活をしていたという。
10代で憶えた酒浸りの生活は、想像通り悪循環を招き、
何をすればいいのか?
何がしたいのか?
どうすればこの生活から逃げられるか?
答えの出ない堂々巡りが、ますます彼をアルコール依存へと駆り立てた。
そんな生活の中、ある日ふと今まで身近にあり、見ていても見えていなかったものが見えた瞬間があった。とあるお店のショーケースにならんだジュエリーが見えた。
「あ、俺はコレをやるんだ。」
すぐにそう思った。と彼は言う。
やろう!とかではなく、やる。
彼曰く
「きっと神様の啓示だったんだよ」
以来、彼はアルコールを止め、一身にシルバージュエリー作りを学んでいった。
それも誰に教わる訳でもない。独学で。
続きはコチラ
↓
多くのこの世代のジュエラーには師匠がいる。
ゲイリーリーブス、サンシャインリーブスには長兄・故デヴィッドリーブスが。
スティーブ・アルビソには故ハリーモーガンが。
ペリーショーティーにはアーニーリスターが。という具合に。
デルバートにはそれがない。
デザインやイメージは「降りてくる」という。
それを具現化するために30年間、様々な技術や表現方法を身につけ、試行錯誤を繰り返し、現在に至る。
アーティストは自分独自の技術を教えたがらない人が多い。企業秘密だから。
でも彼は、惜しげも無く、身につけた技術を人に教える。
有名なのは甥のデリックゴードン
だが、その他にも多くのシルバースミス達に技術を教えている。
僕「ショーにでないの?」
デルバート「いや~、興味はあるけど、僕の作品作りには時間がかかるからね。」
僕「いや、出た方がいいって。」
デルバート「はは。でもあんまりそういうのに縛られたくないんだ。お金もかかるしね。」
「そういうことより、作品作りに時間をかけるほうが性にあってるな。」
う~ん。至って自然体、というかマイペース。
アーティストにはいろいろな在り方がある。
有名トレーディングポストオーナーの娘と結婚し、その繋がりとプロデュース力の助けもあり、ショー等では、未だ衰えぬ人気のアーティスト。
親の代からのアーティスト一家で、工房を立ち上げ、人を雇い、作品を作らせ、最後に自分の刻印を打ち込むアーティスト。
大きなジュエリー関連会社との関係を深め、その関係の中で利益を得、高価な石を手に入れ、その石を活かすスタイルで活躍するアーティスト。
どのアーティストにも、そういう「舞台」に登り、活躍するだけの器があったのだと思う。
だからそれはそれで否定はしないし、現に素晴らしいジュエリーを作ってると思う。
でも、心惹かれてしまうのは、
コネにも、石にも、他人の技術にもたよらない、
決してブレることなく、あるがままに、ひたむきに作品に向き合い続ける。
「無冠の巨匠」デルバートゴードンの作品だったりする。
でも決して気難しいわけでなく、作品に時間はかかるけど、「これは最優先で!」とお願いすると、誰よりもキッチリ期日通りに仕事をしてくれる仕事人でもあり、人に対していろいろ気配りも忘れない、すごく尊敬できる人なのでした。